2020年04月16日

楽譜作製ソフト「Finale」を用いた音声サンプル製作に関する考察(前編)

現在、サウンドデータやサンプル音声を製作するにはDAW (デジタル・オーディオ・ワークステーション) を用いるのが一般的ですが、ここでは楽譜作製ソフトである「Finale」を使用してリアルなサウンドサンプルを作る方法を考えてみたいと思います。

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結論から言うと、サウンドデータを作るのに楽譜作製ソフトを使うというのは色々な意味で非合理的で正直まったくオススメできません。もし音声データを中心とした音楽製作をしたいのであれば迷う事なくDAWを導入し、楽譜ソフトはあくまで入力の補助として用いるのが最も現実的かつ合理的だと思います。

しかし、色々な理由により楽譜ソフトのみでサウンドサンプルを作りたい場合もあるでしょう。特に楽譜製作を中心に作業している方であればそもそもDAWなど所有していないことも大いに考えられます。ではどうすれば楽譜ソフトでもリアルな音声を作れるのか・・順を追ってひとつづつ考察して行く事にします。

尚、ここでは「FInale」を使用しますが、他の楽譜ソフト(SibeliusやDorico等)でも考え方は略同じです。

●用意するもの●
1:専用ソフト音源
どの程度のクオリティーを持つデータを作るのかにも依りますが、一定以上のサンプルを作成するのであれば音素材であるソフト音源を高性能なものにする必要があります。音色がリアルなのはもちろん、様々な奏法やベロシティーレベルまで細かく収録されている製品が何かと使いやすいです。Finaleに付属する音源「Garritan Instruments for Finale」は楽器サンプル数こそ多いものの、全体的に音質がチープで個別の奏法もあまり収録されていないことから「リアルな音声」と言う意味ではこれだけだと少々厳しいような気がします。大編成であれば弦楽器、金管、木管、打楽器の4セクションに関しては専用の音源を使いたい所です。

只、多数の外部音源を使うのはお金も掛かりますしPCのマシンパワーも必要です。業務として劇伴やCMに使うようなサウンドデータが必要というのならともかく、それなりに良い音でオーケストラや吹奏楽などのサンプルを鳴らしたいというのであれば、そこそこの機能を持つ総合音源でも十分ではないでしょうか?。実際、私自身は高価な音源というものを持っておらず、大きな編成の時は(安価で既に時代遅れな..)製品版の「GARRITAN PERSONAL ORCHESTRA KP2」と「GARRITAN PERSONAL ORCHESTRA 4/ARIA」を混合して使い、鍵盤楽器のみ複数の専用音源を使い分けています。

2:複製された(又は新規の)楽譜ファイル
これは サンプル作成専用 に元データをコピーした別ファイルを用意しておくという事です。これから行う方法は浄書された楽譜がスケッチ程度の意味しか持たず、紙面がどんどん猥雑に乱れて行くことから、万が一失敗した時のために複数用意しておいた方が良いかもしれません。楽器によっては(ソロなど)浄書譜を使わずに最初からサンプル専用のファイルを作成した方が良い場合もあります。

後は各種楽譜ソフトがあればOKです。細かい事を考えればこの他にミキシングやマスタリング用のソフトやエフェクト等があれば完璧ですが、ここではあくまで楽譜ソフトのみの機能を使ってサンプルを作成するのが目的なので上の2点のみを用いて作ってみます。

●「鍵盤楽器」のサンプル作成●
まずは基本的な作業方法を説明するため、使用頻度が多いと思われるピアノソロのサンプルを作成してみます。ホストは Finale (2012)、音源は「GARRITAN CFX CONCERT GRAND」を用いた例です。

@声部別に個別のチャンネルを割り当てた組段を作る
例えばあるピアノ曲が四声体構造である場合、実際の演奏では個別の声部を強調したり、あるいは他の声部を弱めたりと様々な弾き方が行われます。Finaleの場合、大譜表において声部レイヤー別に異なったダイナミクス変化をつけるという事が出来ないため(※最新版のFinaleでは音部記号の段別においてダイナミクス変化が可能になっているようですが)、一声部ごとにひとつのチャンネルを割り当てた組段を作り、個別(声部別)にダイナミクスや音色をコントロールしようという訳です。

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この時に各チャンネルの五線を 管楽器等の一段譜で流用しようとするとサスティンペダル(記号)が効かなくなる恐れがある のであくまで大譜表にしておくのが無難です。そして同時にマスターエフェクトやミキサーのバランスも設定しておきます。使用音源にもよりますが、Finale側のマスターエフェクトは全カットにしてソフト側の機能で調節したほうが音源そのものの音質が生かされると思います。又、ミキサーは必要がある場合のみ(旋律を強調したい等)個別の音量を調整し、通常はパンニングも含めて全チャンネルを一定にしておく方が安定するようです(※特にパンニングは音源側で音域ごとに位相が振り分けられている事も多いのでミキサー側であまり極端に弄ると不自然になることが多い)。

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A必要なダイナミクス情報を作成する
これは打ち込みながらでも良いですが、曲の表現に必要な情報を発想記号で作成します。大きく分けてベロシティ情報とテンポ情報の2つがメインになるかと思います。以下は私の作成例です。

●[ベロシティ(強弱) 情報]
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太い数字は曲中で使われる全てのダイナミクスレベルを数値で表しています。音源によっては細かすぎるダイナミクスを表せない場合があるので、お使いのソフトの音を確認しながら可能な範囲で作成してみて下さい。

●[テンポ情報]
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私の場合、曲中で(分かるか分からないかの範囲でも)微妙に速度を変化させている事が多いのでテンポ情報はかなり細かく作っています(実際は上記の倍ほどの記号が使われている)。

B各声部(ch)の調整をしながら全体の構成を組み立てる
ここからが本番で正直かなり面倒です。作業中のファイルは元の浄書譜と殆ど関係ない位に猥雑になって行きます。 ちなみに下記例は浄書譜(のコピー)を使わずに最初からサンプル専用のファイルとして作成したもの(三声部用)。 尚、Finale側の「Human Playback」は常に "スタンダード" にしておきます。カスタムスタイル設定で色々な効果が調整可能ですが、必要な項目以外はチェックを外しておいた方が良いでしょう。 但し、スタイルを全オフ(なし) にしてしまうとペダルや一部のアクセント情報が反映されなくなるので注意して下さい。

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好みの表現に合わせて各声部の強弱や特定の音へのアクセント等を調整します。 ペダリング(記号) も実際の演奏と同じ踏み替え位置に配置させます。 もし特殊なペダル技法を要する場合(ウナコルダやソステヌート)、ソフト音源にそのサンプル音が収録されているならばチャンネルを更に追加してその音色を当てはめた方が良いと思います。 ソステヌートであれば保続音を音符として新たに五線へ書き加え対処します。

同時に響く厚い和音は特別な理由が無い限りバラバラに分散させず一段(又は両手左右で二段) に纏めた方が安定するようです。又、装飾音に関してはFinaleの装飾記号ではうまくプレイバックされないので実音で書き直すのが良いでしょう。 アルペジオ記号は丁度良く鳴ってくれる事もありますが、特殊な音型や弾き方である時はやはり実音で書き換えた方が良いです。 尚、アルペジオ記号を使う場合には直前(一音符前くらい)の速度を速めに設定して一瞬音価を詰めてやるとテンポの間延び(遅れ) を防ぐことができます。

音源によってはある音域に限ってうまく鳴らない部分が出てくるかもしれません(これはFinaleのHuman Playbackの介入なのか音源自体の性質なのかはちょっと不明です)。 そのような時、アクセント記号類とベロシティ情報を混用して調整すると音質を補正できる場合がありますので色々試してみて下さい。

まだまだ色々とコツはありますが、とりあえず上記の方法で作成したサンプル音声が以下の動画になります(※動画内の楽譜が本来の浄書譜です)。

Finale使用サンプル@
A.Barrios「Preludio」from “La Catedral” for Piano

Finale使用サンプルA
武満徹「夢見る雨」for Harpsichord

ちなみに、Aの武満さんのチェンバロ曲ではサンプルファイルが以下のようになっています。

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この曲ではチェンバロのマニュアル(上下鍵盤)弾き分けやレジスター交換が多い事から5つの音色別チャンネルを設定してその中で(楽譜の指示通り)細切れに連結させています。チェンバロの場合はペダルを持たず音量も考えなくて良いのでピアノよりは楽ですが、独特な鍵盤タッチ感を表すのに少々特殊な音符の書き方とアクセント設定が必要でした。尚、このサンプルは「THE CONSERVATOIRE COLLECTION」という専用音源を使用しています。

前半編のまとめとして
ここまでは鍵盤楽器による例でしたが、基本的にはその他の様々なソロ楽器(木管、金管、弦楽器、その他=単旋律/重音楽器)でも方法的には同じです。要するに ダイナミクスを含め、色々な奏法や音色、特殊な用法がある場合にはそのための専用チャンネルを用意してそこで個別に調整し、最終的に混ぜ合わせる というものであり、考え方としては最もシンプルで単純と言っても良いでしょう。とにかく楽譜ソフトでリアル音声を作ろうとすると色々な作業をすべてマニュアルで行わなければならず、楽器の演奏法そのものの知識もかなり必要になってきます。後ははっきり言って根気の問題でしょうか?。

今回、前半編の記事では基本的な手法を記すためにソロ楽器を対象としましたが、次回の後半編ではこれまでの応用としてオーケストラや吹奏楽等の大編成サンプルを作る方法を説明してみようと思います。
posted by アッキー at 09:14| 北海道 ☔| Comment(0) | 音楽・楽譜・書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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