2020年03月25日

カリンバの記譜に関する考察と実践(後編)

前回 はカリンバ楽譜における五線譜やタブラチュア譜の諸問題について書きましたが、後編では実際にどういう可能性があるかを考えてみたいと思います。

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まず、前回指摘した問題点をもう一度まとめると。

▶五線譜以外の記譜の可能性
▶ソフトウェアフォントの問題点
▶メロディー、ハーモニー、リズムの独立化
▶スコアレイアウトの効率化

これらをうまく纏めるのは容易な事ではありませんが一つづつ探ってみる事にしましょう。尚、以下の案は 一般的に普及されている17音カリンバ を対象としており、半音階式やピアノ鍵盤式、ムビラ等の特殊楽器には対応しないことをご了承下さい。

演奏譜(タブラチュア)としての可能性
前編で指摘したように「五線譜」は全く音楽経験のない入門者にとって想像以上に大きな壁です。楽曲の解釈や音楽表現という以前に、まず 音を出すことによって易化にその楽器そのものに興味を持ってもらい継続する切っ掛けを作ることが出来るのか が重点になります。その点、タブラチュア(演奏譜) というのは視覚へ直接訴えることにより感覚的に理解可能な記譜法として活用の価値は大いにあるでしょう。

「Kalimba Tabs」は直感的という意味で良い線を行っている一方、現状では問題点も多い事から異なる方法として以下の方法を順を追って試してみます。

@:対応可能な楽譜ソフトの導入
フォントやグラフィックに関してはソフトウェア側の問題であるため個人ではどうすることも出来ない領域です。ならば可能な限り精密な楽譜製作のできる市販ソフトを使うしかありません。現在楽譜作製ソフトには色々なものがあり、「Finale」「Sibelius」「Dorico」等の高機能な製品であればどれも問題ないと思われます。以下は、様々な形態のスコア作成が可能で、使い方によっては非常に特殊な記譜も可能となる「Finale」が用いられています。

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A:音板番号によるタブラチュア化
カリンバをタブラチュア化するにはいくつかの方法が考えられる中、ここでは17音カリンバを想定した「音板番号を並べる方法」を採用してみたいと思います。

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上記のタイプでは音板に番号が刻印されており、付属として番号シールも用意されています。この 音板番号をそのまま弾く音として記載 するわけです。機種によっては音板に番号が刻印されていないタイプの楽器もありますが、その場合も基本的な考え方は同じです。

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これを記譜すると上図(※クリックで拡大)のようになります。視覚上は楽器を左横に倒した形であり、時間軸は一般的な楽譜同様右に流れて行きます。製作者にとっても特殊なソフト操作は必要とせず、割と簡単に作る事ができる点もポイントでしょうか。この「番号列居式」はインターネット上で見かけることも度々あって、やり方は異なるものの色々と試されている方もおられるようです。特殊すぎないポピュラーな方法として向いている書法なのかもしれません。

B:五線譜の併用
タブラチュア譜には総じて「楽曲構造を表すのが難しい」という大きな欠点があります。ギターのタブ譜等では数字に符尾や連桁を付加して大雑把に表す事も可能ですが、この番号列居式では少々困難です(不可能ではないが無意味に紙面が複雑化しスペースも無駄になる)。ならば構造表現に優れる五線譜を一種の「ガイド譜」として併記し、メロディー、ハーモニー、リズムの三要素を集約したほうがシンプルに纏まるように思われます。

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五線譜というのは読みに関しては(演奏楽器との兼ね合いで)慣れる必要がある反面、視覚的には音の構成を直感的に感じやすいという特性を持ち合わせています。よってこの場合、奏者は五線譜を「正確に読む」必要は無く、イメージや(演奏サンプル等があれば)耳に聴こえる音を絵を見るように感じ取りながら音板番号を鳴らせば良いだけです。尚、音板表記側に記されている 黒い番号は「メロディーに相当する音」を表しています。

但し、ガイド側は イメージをしっかり喚起させること も目的なので、可能な限り楽曲構造は正確に記譜すべきです。旋律以外の声部があれば一つに纏めず多声部化させて書き、アーティキュレーション類(特にカリンバで多用されるアルペジオ記号)もはっきりと見やすい場所へ。メロディーにはフレージングのためのスラーを掛けると旋律の流れがより強くイメージできると思います。

【誤】           【正】
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ガイド譜の五線は大きく表示する必要はなく、番号表記側を100%とすれば五線譜は60〜70%程度の表示率で十分と思われます(上例は65%表示〜音板側はもう少し大きくて良いかもしれません)。これによって紙面スペースを節約することが可能です。

アニメ映画《大鱼海棠》よりイメージソング「大魚」

上の動画は人気カリンバ奏者”April Yang”さんの演奏する「大魚」。これを上記の方法で採譜してみたものが以下の楽譜になります(※クリックで拡大)。

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これが直感的に演奏できるものかどうかは疑問の余地も残りますが、手っ取り早く音を鳴らすにはそれ相応に可能ではないでしょうか?。尚、このような(一般的ではない)特殊な記譜を採用する際には、読み方や記号の意味を記した説明文(Insturments Notasion)を付属しておくのが親切です。

演奏に関しては素人である私が実際に鳴らしてみたところ、やはり楽器(の向き) と楽譜の見た目が一致しないのがちょっと不自然に感じます。又、音板番号(※番号が付いていなければ想定上の音板) というものを瞬時に判断して弾くのは楽器に慣れない初級者にとって意外に難しく労力を要するようです。

もう一点、楽譜製作上の問題として、「組段内の小節割数がある程度制約される」とうい欠点も見えてきます。

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小節を3割り4割りと小さくして行くに従って下部の音板表記が詰まってしまい(個人差もあるでしょうが)非常に読みづらくなってしまうのです。音符の数や表示率によっても変わってきますが、現状では極端にシンプルな楽曲でない限り2〜3割り程度が限度でしょうか。一段当たりの小節割りが少ないというのは全体の”組段数”が多くなるという事であり、同時にページ数そのものが増えてしまう事を意味します。

こうして見ると試作段階とは言え、もう少し問題点を整理し吟味しながら改良を施していく必要性があるようです。ここまで新しい案やその欠点まで含め色々書いてきて、記譜法を改変、改良する事の困難さというものを改めて再認識したような気がします。

総 論 と し て
結果的にこの場で結論を出すには至りませんでした。しかし、ここで重要なのは個人の独断で全てを決定する事ではなく、小さなアイディアを提示し、より多くの可能性を共有して次へ繋がる実用的な記譜法を考え発展させる切っ掛けを作る という点にあります。

カリンバは表現上の可能性を多く秘めている楽器であることは間違いないでしょう。しかし、ピアノやヴァイオリンのようなメジャーな楽器とは異なり、楽譜やメソッド、レパートリーなど、まだまだ未成熟で未知数な部分が多いのも事実です。優れた演奏家の方はもちろんですが、愛好家や入門者までも含めて、この楽器を愛奏する多くの人達が様々な問題点や可能性を共に考えて実践してみる良い機会になればと思っています。

●カリンバ教本【Kalimba Book】木佐貫洋平(著)
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posted by アッキー at 12:43| 北海道 ☔| Comment(0) | 楽器 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月07日

カリンバの記譜に関する考察と実践(前編)

以前の記事で紹介したカリンバ(下記は17鍵の楽器)。

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ここしばらく演奏法を始めとして、機能・特性・特殊な用法まで、コンポーザー/アレンジャーの立場から色々とこの楽器の可能性を調べてきましたが、もうひとつ腑に落ちない点があります。それはカリンバという楽器の「記譜法」に関する部分です。

本来のカリンバは即興演奏を主体とするものであって楽譜に書かれた音を正確に演奏するという性質ではないかもしれません。しかしカリンバ入門者の多くは人気のポップスや有名なクラシック曲を弾いてみたいと思っている方が大半ではないでしょうか。であれば当然それらの楽曲がアレンジされた楽譜を用いることになりますが、現在市販されているものは一般的な五線譜であることが多いようです。

カリンバはシンプルな楽器なので一度覚えてしまえばそれほど読譜に困難は生じないかもしれないし、コンポーザーにとっても五線譜を使うことで記譜上の自由度が広がるのは事実。ただ、全く音楽経験のない入門者(特に独学者)にとって五線譜を自然に読むという行為は想像以上に敷居が高く、特にカリンバは左右交互配置という独特な音板配列を採用していることから視覚心理的にも混乱を生じてしまい、結果的に演奏を楽しむ前に諦めたり飽きてしまうことが起こりがちです。ギターのTAB譜や大正琴等の簡譜(数字譜)がアマチュアにとって実用的な楽譜であるように、内容を感覚的に理解でき、容易に演奏可能な楽譜の整備がカリンバにも必要ではないかと考えます。

●《Kalimba Tabs》●

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Kalimba Tabs(カリンバ・タブズ)は動画などでよく見かけるカリンバ用の楽譜。現代音楽の記譜法であるクラヴァールスクリボによく似た外観を持つ書き方で、楽器を真上から見た形で表示し、時間軸は上方へ流れるようになっています。この記譜の優れたところは、楽器の形状そのものが見たまま書かれているため誰にでも理解可能という点。上にスクロールして行く動きも感覚的に理に適っているように思います。入門者にとって面倒な事を考えること無くすぐに音を出す一歩を踏み出せるのは大きな利点でしょう。

しかしながら現状では欠点も見えてきます。まず、ソフトウェア自体のフォントが全体的に雑で汚いことから、横線で表示される小節線の位置や音符の符尾・リズムが分りづらく、読譜するのに若干ストレスが掛かること。これはソフトのグラフィックが美しく描写されれば改善する問題かもしれません。

次に、タブラチュアや簡譜共通の問題ですが、主旋律(メロディー)がどの音なのか分からないという点が上げられます。メロディーのみの単純な楽曲であれば然程気にする必要は無いかもしれませんが、伴奏が付いていたり内声が含まれる場合にそれらの差別化が難しく混乱してしまう可能性が高いです。音楽の主要素であるメロディー、ハーモニー、リズムは独立させて記譜する必要があるように思います。

もう一点として、これを印刷譜化(又はPDF化)した場合、紙面のスペースが大きく盗られてしまうこと。Kalimba Tabsは上方へスクロールする記譜法なので当然上下スペースが大きくなります。

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恐らくA4用紙(縦入) へ印刷した時にはこのような感じになると思われますが、楽器そのものを視覚化しているため表示率を縮小して何列も表示するには読み易さの点で限界があり、上例のように二列化すること(又は”横入”で三列程度)が限度に思います。ここに記譜情報を多く入れようとすると、小節(上下)スペースを詰めるか、紙の大きさを大型化(又は縦スクロール専用紙化)するか、ページ数そのものを増やすしかありません。楽譜全体が圧縮された結果として複雑に見えたり、ページ数が無闇に増大してしまうことは演奏者に心理的負担をかけてしまう要因にもなりあまり好ましくないでしょう。

実際に音が鳴りガイドが表示される動画やアプリとして用いるならばそこそこ良い線を行っていますが、楽譜としての「Kalimba Tabs」はまだまだ発展途上の記譜法であるとも言えます。

上記をまとめると

@ソフトフォント/グラフィックの問題
A旋律や内声部の差別化
B紙面スペースの節約

ではどうすれば入門者にも適した楽譜に近づくことができるのか?。次回(後編)は私なりに考えてみた方法を実践してみたいと思います。
posted by アッキー at 00:22| 北海道 ☔| Comment(2) | 楽器 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする